• 暖炉・薪ストーブ
• 吹き抜け
• リビング階段
• テラス・屋上
• 縁側あり
• 対面キッチン
• アイランドキッチン
• その他

風と火と農家住宅　ー地域の自然に寄り添い、手繰り寄せて暮らす農家住宅ー

studio colife3

MORE ▼

私たちは
「建てる人の想い」「土地がもつ個性」「現代の技術」の3つが調和する、
その人、その場所、その時代に、固有の建築をめざし、日々の設計に取り組んでいます。

この建築は自然農法のお米づくりに取り組む愛媛県松山市の うかのわ さんのご依頼から生まれた農家住宅です。

「地域の水と土と太陽でつくるお米づくりのように、地域の自然に寄り添い、手繰り寄せて暮らす」
そんな想いから、この風と光の通り道をもつ焼杉の農家住宅が生まれました。

若い農家さんたちの予算でも実現可能な「夏は涼しく、冬は暖かい、自然と共に暮らす生活」を目指しました。

1.　土地の個性を読み解き、先人の知恵を現代に活かす

敷地は愛媛県松山市道後平野／重信川の中流域にあります。

敷地は東西に長いかたちで道路に近い低い農地と奥の高い農地が選べました。経験と調査から一段高い位置にある農地を選び、低い方を家庭菜園の畑として使うことを決めました。

敷地調査（地域のデータ・ヒアリング調査と現地の気象観測・地盤調査）からこの土地には次のような個性があることがわかりました。

・風の通り道：夏を中心に春から秋にかけて東西に流れる昼の海風・夜の山風
・古民家の知恵：地域の古民家の海風・山風を取り込む庭と続き間の工夫と冬の北風対策
・地形／地質の安定性：高い方の農地は山からの尾根の延長線上にある安定した地盤
・山林と木材の関係：瀬戸内で古くから使われる焼杉と地域の山林資源の有効活用の関係

こうした土地の個性を活かし、その場所に固有の建築を考えることを決めました。

2.　建てる人の思いを土地の個性に取り込む

お施主様のヒアリングの回数を重ねていくなかで、次の四つの軸が見えてきました。

・旦那さんの農家ならではの”働くと暮らす”が共存する生活（書斎・納戸・米保管庫）
・奥様のキッチンを中心とした生活像（外が眺められるアイランドキッチン／ダイニング、薪ストーブ）
・自由でのびのびとした子どもたち（テレビのないリビングで自然の営みのなかで暮らす生活）
・自然素材、特に木材を出来るだけ使った建築

これらの軸をこの土地の海風・山風が流れる「風の続き間の空間」として配置していくことで、自然農法のお米づくりのように、自然と共に暮らす生活をつくりだすことを目指しました。


3.　風の通り道と薪ストーブをテーマにした空間デザイン

・風と光の出入り口：風が一番感じられる場所に、キッチン／ダイニングと書斎／納戸・米保管庫を配置することを決めました。東西の風の出入り口には木格子を設けることで、室内のプライバシーを確保しながら心地良い風と光を導いています。

・建築全体を暖かくする吹抜けの薪ストーブ：キッチンの隣は、吹抜けの薪ストーブのあるリビングです。建物中央付近にあることで冬は建物全体を暖め、春から秋は吹抜けを介して全体の通風を促進します。

・風と光を誘うスリット階段：書斎とリビングのあいだ廊下と階段です。階段をスリット階段とすることで風と光が通り抜ける場所となります。竣工後に訪れたときは、階段下は子どもの遊び場として活用されていました。

・のびのびとした2階：寝室や子ども部屋は大きなワンルームとし、将来対応のフリースペースを確保しました。風と光が満ちる大きなワンルームとして、のびのびと使えるようにしてあります。

収納・水まわりは南北にまとめ、
中央を「風と光と人の通り道」とする構成は、地域の古民家に倣ったものです。

4.　山林と焼杉－地域の山とつながる建築　

木材を出来るだけ使いたいという思いから、外壁は瀬戸内海で伝統的に使われている焼杉を採用しました。

愛媛には焼杉を工場で生産する事業者があり、お話を伺うと、

「節のある杉板など、本来は山の余り物だった木に価値をつけ、山に利益が返るしくみをつくりたい」

という想いから生まれた製法だといいます。

山からの豊かな水でお米を育てる自然農法のように、
この家も地域の山の恵みを暮らしのなかに取り込むかたちとなりました。


5.　自然の力を現代の技術で導く（太陽・通風・断熱）

建築の骨格が見えてきたら、コンピューター上の3Dモデルを使って環境性能を確認、調整していきます。

・太陽光の調整：各季節の太陽光をシミュレーションし、軒の長さや木格子の間隔を調整しながら、冬の日射取得・夏の日射遮蔽のバランスを決定していきます。

・風の流れの確認：流体シミュレーションで、想定通りに風が流れそうかの確認していきました。日本の南側は地球温暖化の影響で高温多湿化が進んでいます。通風を積極的に利用することで、冷房時間を縮小し、大きな省エネ効果を目指しました。

・適切な断熱性：コストバランスを考えて一般的な省エネ基準で使われる窓や断熱材の仕様を決めました。この建築は窓の比率が低いため、結果的には一段高い、断熱等級5（ZEH）相当の断熱性能となりました。

暑さ寒さの感じ方は住む人の好みにも左右されます。
太陽の暖かさが好きか、エアコンの安定した環境が好きか、自然の風が好きか——
そうした感覚の違いも丁寧に聞き取りながら、

土地の個性と建てる人の好みを結びつけ、この建築ならではの環境を作っていきました。


6.　30代のお米農家さんのためのコストバランス

この建築は建築工事費、農地の地盤改良費、アプローチ新設を含めた外構工事費を坪60万円台（税込）に納めるという、当時としてもローコスト住宅に近い予算で実現しています。

これは将来の新規農家さんたちへ、お米農家でもこんな暮らしができるということを示したいという、旦那さんの思いでもありました。

三社からの見積もりは当初は1.2～1.5倍ほど予算オーバーでしたが、幅・奥行き・高さを調整しながら、材料の無駄を徹底的に省くことでコストを切り詰めていきました。

・焼杉の板の規格に建物の高さを合わせて、端材（切った余り物）を最小限に
・シンプルな切妻屋根の合掌の門型フレームにして、室内高さを確保しつつ、コストダウン
・県産材の補助金を活用しつつ、必要強度に合わせて樹種を変え、コストと地域の炭素循環の両立

その他にも例えば漆喰や木板仕上げだったところを壁紙にするなどの仕上げ調整をさせていただき、最後までお施主様がこだわり通して薪ストーブは残すことができました。

お施主様、施工者さんのご協力によって、予算内に納めることができました。


7.　地域の自然に寄り添い、手繰り寄せて暮らす農家住宅

農業が田んぼ通して自然の恵み（水）を手繰り寄せ人工的な環境を築き上げながら、自然の風や太陽に寄り添い土地の生態系の豊かさを増しながら、私たちの暮らしの土台となる食糧を生産しているように

建築も、自然の恵み（木材）を手繰り寄せ人工的な環境を築き上げながら、自然の風や太陽に寄り添いながら、暮らしの土台となる空間をつくりあげることができる

そうしたビジョンをこの建築を通して、みなさんのなかに描くことが出来ていれば幸いです。

私たちは「建てる人の想い」「土地がもつ個性」「現代の技術」の3つが調和する固有の建築をめざし、日々の設計に取り組んでいます。

あなたの固有の建築を実現するお手伝いをいたします。