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間取りの事例 009

やまぐち空間計画

これまでにつくった間取りを語るシリーズ、第９回です。

今回は約30坪の家です。部屋構成としてはごく一般的な「１階にＬＤＫと水廻り、２階に個室や寝室」というもの。それらをこの敷地にどうはめ込んでいくか、その思考をいつものように書いてみましょう。

まず敷地の特徴としては、方位ですね。土地そのものは単純な長方形ですが、方位が45度に近いくらい振っています。道路は南西側。ちょうど東西南北に面する敷地の方が少ないとはいえ、振りの角度が大きい。

もうひとつは、土地の三方にある斜面の印（郵便マークのようなやつ）。これが示すのは、ここが坂の途中にある、段々になった敷地のひとつだということです。道路と同一面で接するのは西の角の部分。

南東側の隣地は一段下がっていて、そこにはまだ建物はありませんでした。でも上記の敷地特徴から「いずれ隣に建つ家」を想像してみます。それに対してどうするか、を考えるためです。

私のつくる間取りは違いますが、一般的なハウスメーカーやビルダーによる住宅は「長方形の総二階」が圧倒的に多い。とすれば、南西の道路側に駐車場と庭を並列させ、敷地の奥に総二階が建つ可能性が高いはずですね。

ではこちらもそうする、という方法もあるでしょう。でもそうではなくて、上の絵のような横になった「Ｔ字形」にして、Tの縦棒の部分を道路側に飛び出させれば、この敷地の方位ではそこはより長い時間日照を受けることが出来るのでは。

そういう思いでこういう形状になりました。Ｔの縦棒の両側が駐車場とお庭。そしてこの一番明るい場所になる縦棒部分がダイニングキッチンになっていて、そこは２階のない下屋。奥のT横棒部分が２階建てです。

「総二階に一部下屋付き」という建物形状ならば、道路側にその下屋が面している方が建物の姿が良いですよね。またダイニングが下屋なので、そこを勾配天井にすることも出来る。下屋が玄関という家は多いですが、下屋がＤＫでも全然構わないわけです。

隣家がどう建つかは不明でしたが、少なくとも駐車場は同じ場所になるでしょう。そこでしか道路から入れないのですから。となればこのダイニングに面した庭は、少なくとも庭プラス隣家駐車場の分だけは広がりをもてるに違いない。

このようなことを敷地から読む。読むのは現状と、そして将来の姿です。敷地条件や法的な条件をふまえてそうした想像を逞しくするチカラというのも、間取りづくりにあたっては非常に大切だと思います。

また、前回「空間の対角線」のことを書きましたが、キッチンの奥から畳コーナーの隅まで、ここでも対角線が意識できる間取りになっていますよ。デッキのあるお庭も、ダイニングと畳コーナー、別の見方を楽しめる。

このシリーズ、回を重ねるごとに自分でも感じていますが、採り上げてきたどの間取りも、要するにその思考の道順は同じなんですね。敷地がもつ特性をよく咀嚼し、そこから見えてくる「かたち」にご家族のご希望を嵌め込んでいきます。

最後に上でも述べた「斜面のマーク」について。このような造成地の敷地で法面（斜面のこと）が残っている場合、その斜面の角度はほぼ30度です。これを「安息角（あんそくかく）」と言って、30度より緩ければ、地面は崩れることなく安定するんです。

この間取りの提案では、その法面をそのまま残す絵になっています。敷地境界に擁壁を設けて全体を平らにすることも無論できますが、それには費用がかかる。さいわい面積的には余裕のある土地ですから、必ずしも新築時でなくてもいいのでは？

この法面はそういう意味なんです。まずは建物に予算を注力し、そこに暮らしながらいずれ庭を広げる計画を練っていく。擁壁と土工事に費用を取られて建物の床面積が小さくなってしまうのと、どちらを選択しますか、と。

家づくりは人生最大の出費であり、何度も出来るものではありません。私たちつくり手も、つくるならずっと何世代も使える家であってほしい。そのため時にはそうした長期的な視野に立つ考え方を織り込むことも、私は間取りづくりの一部だと思うんです。

※私のブログには他の間取り事例も多々ございます。やまぐち空間計画WEBサイトにて、是非ご覧くださいませ。